インスペクション本格化から5年…中古住宅の住宅診断件数は増えたのか?
既存住宅流通研究所×Non Brokers中林昌人所長×東峯一真社長1507号(2022/06/06発行)13面
中古住宅流通市場を活性化させるには何が足りないのか。ハウスメーカーが建てた中古住宅「スムストック」に長年携わってきた既存住宅流通研究所の中林昌人氏と、インスペクションのアプリ開発や物件売買のウェブサービスの運営などを行うNon Brokers(東京都港区)の東峯一真社長が対談。それぞれの視点から業界の課題に迫った。
【司会・編集長 金子裕介】
既存住宅流通研究所 中林昌人 所長
《プロフィール》
ハウスメーカーの既存住宅流通ブランド「スムストック」を運営する優良ストック住宅推進協議会の代表幹事・事務局長などを務める。その後、ビルダーのアフター代行事業を手掛ける会社の代表取締役を務めた。
Non Brokers 東峯一真 社長
《プロフィール》
インスペクション業務を効率化するアプリ「インスペ」、売却サービス「いえうり」など、不動産業界の課題を解決するウェブサービスを手掛ける。
――中古住宅を買わず、新築にした人の理由に、中古には「欠陥」がありそうだったからという調査結果があります。国では、中古住宅の品質をインスペクション(調査)によって明らかにして取引をすることが望ましいとして、2017年、既存住宅の調査の担い手育成を始めました。それが「既存住宅状況調査技術者」と呼ばれる人材です。それから5年。インスペクションは浸透したのでしょうか。
東峯 私どもではインスペクションを効率化するアプリを作っていて、何度も現場にも行っています。例えば木造の築40年の家に行ったとき、天井を見ても何もないのですが、小屋裏点検口を見ると雨染みがある。ですから、インスペクションは大切だと思っているのですが、実際にはなかなか普及しておらず、5年前と今でも実施数は変わらないのではという感じがします。
中林 どうしてなんでしょうかね。私もこの一年で、自分の不動産を売買しましたが、不動産仲介会社の方からは、「インスペクションというものがあるのですが、実際にあまり利用する人はいませんが一応説明しますね」というような感じで、熱心に勧めているような人に会ったことがありませんね。
東峯 不動産仲介会社の方々は、重要性は理解している方が多いんです。ただ、本当に診断をやって欲しいといわれてしまうと、調整に1週間、診断結果を出すのに1週間といったような時間や手間がかかることを面倒だと感じてしまう方もいると思うんです。また、売り主さんはインスペクションされると、良くない箇所をあら探しされてしまうのではと感じる人もいます。アメリカでは流通する物件の8割くらいがインスペクションされているとも聞きますので、まだまだ日本では浸透していないと思います。
中林 以前東峯さんは、車には車検があって、定期的に診断をして安全性をチェックする仕組みがあるが、家にはそれがないと発言されていましたが、私もそう思うんです。
東峯 物件をいざ売りに出すときに、この物件は検査済みで、こういう状態の家なんですという、「車検付きの家」というんですかね、そういう風に物件が市場に並べば安心感があるので、より買いやすくなるのではと思うんです。そのためには、診断もそうですし、中林さんが手掛けられていた新築後の長期のアフターメンテナンス、そして住宅履歴なんかが整備され、それを公開できるような仕組みにすることが大事だと思うんです。
中林 私は今ある会社と進めているプロジェクトがあるんです。それはきちんと家をメンテナンスしたら「メンテナンス証明書」みたいなものを発行して、いざ家を売ろうと思ったときにその証明書を使う。資産価値について理解がある不動産会社ネットワークと共に、何も手入れしていない家に比べて高値で売れるような仕組みを作りたいと思っています。
今は築20年が経過したら建物価値がゼロ円という査定。そうではなくて、手入れされていた価値があるものにはきちんと値段がついて売れていくというような市場を作りたいんです。メンテされた家であれば、物件を買う人も喜びますし。それに、住宅オーナーの方がなによりも維持管理しようという意欲がわきます。例えば防蟻処理なんかも、やった方が長持ちするということはわかるけど、それだけでは意欲がわかない。物件を売るときに価値がついて高く売れるという「出口」を用意すれば、前向きに防蟻をしようと、なる可能性があると思うんです。